« 無人島 | トップページ | 困りごと »

2005年11月28日 (月)

執筆ノート

吉川英治は、昨日書いたように多くの作品を遺しています。

さて、当館では吉川英治の≪執筆ノート≫も収蔵しています。

吉川英治の場合、≪執筆ノート≫には2種類あります。

まずは、作品の構想をメモしたり、作品のための資料を抜書きしたり、あるいは取材旅行の際の覚書きを記録したりといった、一般的な意味での≪執筆ノート≫です。

これに対して、もう1種類のものは、こんなものです。

そのノートには、吉川英治の小説の一部分が、様々な人の手によって書き記されています。
これは、連載小説の各回の最後の一段落ほどを、書き写したものなのです。

どういうことか?

吉川英治は、人気作家で、多くの作品を同時に連載していました。

例えば、昭和14年1月を見てみましょう。
この月に発表された小説には、以下のものがあります。

「宮本武蔵」(朝日新聞)/「太閤記」(読売新聞)=日刊紙連載
「天兵童子」(少年倶楽部)/「魔粧仏身」(キング)/「悲願三代塔」(講談倶楽部)/「江戸長恨歌」(婦人倶楽部)/「新版天下茶屋」(富士)=月刊誌連載

いま、日刊紙に同時に2本も連載を持つ作家など皆無でしょう。
それだけでも驚きなのに、月刊誌連載が5本もあるのです。
しかもこの他に、「歩く春風」(オール読物)/「東雄ざくら」(現代)/「柳生月影抄」(週刊朝日)の3本の読切りも発表しているのです。

つまり、ほぼ同時期に10本の異なる小説を執筆しているのです。
もう超人の域ですね。

しかし、こうなってくると、どの作品をどこまで書いているのか、混乱してきます。

ここで先程のノートが登場します。

1冊のノートには、ある1作品の連載末尾が書き写されています。
その最新の部分を見れば、その作品をどこまで書いたのが、すぐにわかるわけです。

すぐわかるといっても、書き写されているのは一段落ほどです。
それで前回の全てを思い出し、次を書くのです。
しかも、直前まで別の作品を執筆している場合もあるわけですから、その一段落だけで、頭の切り替えもするのです。

とても常人には真似の出来ないことです。

|

« 無人島 | トップページ | 困りごと »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 無人島 | トップページ | 困りごと »