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2005年11月 3日 (木)

紋付を着るの記

というタイトルの随筆があります。
これは吉川英治が文化勲章の授賞式に臨むにあたって書いた随筆です。

吉川英治の若き日、厳しい貧乏生活の中で、父親が英治のために密かに紋付をあつらえた。
当時すでに病床にあって働けなくなっていた父親がコツコツ節約して貯めたなけなしの金であつらえたものだった。
しかし、さぞ喜ぶであろうと思った父親の考えに反して、英治は自分が働いて家計を支えているという自負もあって「その日暮らしで何が紋付だ」と腹を立て、口論となってしまった。
挙句の果て、「一生紋付は着ない」と口走り、実際、これまでの生涯、紋付は着なかった。
しかし、文化勲章の授賞式は服装規定があり、モーニングか紋付と決まっている。
そこで紋付を新調した。
一生着ないと言って父親を激怒させた紋付を着て、授賞式に臨むことにした。

そんな内容の随筆です。

文化の日の授賞式当日、吉川英治は、その父親の象徴ともいえる紋付を着て、ふところには母親の写真を忍ばせ、皇居に向いました。
つまり、両親とともに参内したわけです。

作家としての成功を見る前に世を去ったため、報いることの出来なかった両親への、せめてもの孝行だったのでしょう。

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