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2005年12月23日 (金)

重箱のもう片隅

昨日に続いてもう少し「時代小説盛衰史」に補足を。

・194ページ
吉川英治が最初の妻・やすとの不和が原因で自宅から出奔し、一年ほど旅の空に暮らしたというエピソードが紹介されています。
やがてこの旅には、ある女性が同行することになります。

謹厳な吉川英治のイメージからは意外な感じがしますが、こういう女性関係のもつれを、吉川英治も経験しているのです。

さて、妻の束縛から逃れ、心を一新しようとした旅のはずが、別の女性につきまとわれて、煩わしい思いをする、という状況に陥った吉川英治が残した句として、この本では次の句を挙げています。

悶々と蝿を叩いてゐたりけり

しかし、この時に詠んだ句がもう一句あります。

茨の花曲がった道も茨の花

こちらの方が、当時の状況をよりストレートに描いているように思えます。
両方紹介して欲しかったと思います。

・282ページ
挿絵画家の岩田専太郎を紹介する中で、吉川英治とのエピソードが出てきます。

吉川英治の人気を高めた「鳴門秘帖」は、同時にその連載挿絵を描いた岩田専太郎にとっても出世作となりました。
挿絵は、編集者が作家から受け取った原稿を持って挿絵画家のもとにやって来て、それを読んで挿絵を描き始める、というのが通常の流れです。
ところが、「鳴門秘帖」の最終回の時、作者の吉川英治が自ら原稿を持って岩田専太郎を訪ね、「今まで苦労をかけたから一緒に食事に行こう」と誘いに来た、というエピソードです。

この本では、その吉川英治の心遣いに岩田専太郎が感動したというところでこのエピソードは終わっています。

岩田専太郎自身がこのことを書いた文章には、この後にオチがあります。

食事の前に最終回分の挿絵を完成させないといけないからと、岩田専太郎は自分の画室で吉川英治を待たせて、同じ部屋で挿絵を描き始めました。
そのうち絵を描くことに集中しはじめた岩田専太郎が大声で叫びます。

「エイジ、エイジ!」

突然のことに吉川英治は、気が変になったかと驚いたそうです。

実は、岩田専太郎の弟の名が≪英二≫。
その弟に、出来上がった挿絵を新聞社まで届けさせようと思って呼びつけたら、背後にもう一人「エイジ」がいた、というわけです。

話の流れで割愛したのでしょうが、私は好きなエピソードです。

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