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2006年4月21日 (金)

揮毫

吉川英治が宿泊したことがある、という旅館には、たいてい、吉川英治の墨蹟が残っていたりします。

吉川英治は、割合そういう場での揮毫の依頼をあまり断らなかった人のようです。

それでも、こんなことを書いています。

だが、この揮毫家は無料であるから、勝手は云う。半紙などへは御免こうむる。墨汁もいやだ。手帖など出せば出す顔を見てやる。旅館の画帖などにしても、その中に自分のいやな人が先に書いていれば、所詮、書く気にはなれない。(随筆「非茶人茶語」より)

この部分の前に「女給氏からハンケチにサインを乞われるよりはまし」なんて文章もあります。
今でも、よくタレントなどが、レストランの紙ナプキンやバーのコースターにサインを書かされた、なんて話をテレビで披露していますが、手近なものに何か書かせようとするのは、昔も今もあまり変わらないのですね。

ちなみに、自分以外の作家の様子について、同じ随筆にこんなことも書いています。

気楽に何でも、乞われるままよく書いてやる人は久米正雄氏、ぶつぶつ云いながら嫌と云えない人が菊池寛氏、書いてくれるんだかくれないのだか分からない間に書いているのが横光利一氏、頼まれると欣しがって頼まれた以上丹念をこめて、目高だの、松の木だの一生懸命に書くのが村松梢風氏、きっと書かないで逃げてしまうのが大佛次郎氏、飲ませればいくらでものたくる田中貢太郎氏――限りがないからもうやめるがみんなその点でも一風ある。
潔癖に書かない人もある。いやしくもしない気持ちである、たとえば泉鏡花氏のように。

各人各様で、なかなか興味深い話です。

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