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2007年4月 1日 (日)

母と宗教

以前書いた「母を詠む」という文章にコメントがつきました。
せっかくなので、その回答をここに書きます。

大正10年、吉川英治は、職を求めて山崎帝国堂の面接を受けます。

その時、面接官から「君には何か宗教はあるか」と聞かれた英治は、「自分には宗教はない」と答えます。
すると、「当社では宗教のないような人物は採用していません」と言われてしまいます。
そこで仕方なく立ち去りかけた英治ですが、いささか釈然としないものがあったので、最後に言い添えました。

それが、ご質問の言葉。

僕の胸にはいつも死んだお母さんが住んでいる。でお母さんさえあれば、僕は決して悪いことはできない。決して怠けられない。決して人をあざむけない。

「そんなことじゃいけないでしょうか」と問い直したところ、面接官はしばし考え、追って連絡しますと言い、後日採用の通知が来た。

そういう話の一部なんですね、この言葉は。

で、出典をお尋ねですが、これはいくつかあります。

○「吉川英治対話集」(昭和42年5月25日 講談社)所収 『文学への道』

吉屋信子との対談で、初出は『婦人公論』昭和27年5月号。初出時のタイトルは『文学と人生』でした。
『母の思い出』という小見出しの部分に出てきます。

○「吉川英治対話集」(昭和42年5月25日 講談社)所収 『私の好きな女性』

石坂洋次郎との対談で、初出は『婦人倶楽部』昭和30年6月号。
『母こそ私の宗教』という小見出しの部分に出てきます。
同じ本に同じ話が、2ヶ所で出てきているわけです。

○「書斎雑感(講演集)」(昭和52年8月1日 講談社)所収『親鸞聖人について』

これは「吉川英治文庫」の161巻。
タイトルからわかるように、元は昭和36年5月10日に行った大阪真宗青年会連盟での講演です。
初出は、毎日新聞の昭和37年10月1日号から9回に分けて連載されています。
なお、上の吉川英治の言葉の引用部分は、この本での表現を用いています。

○「われ以外みなわが師 私の人生観」(平成9年4月21日 学陽書房)所収『就職と母』

この本は、昭和47年に大和書房から出た単行本を文庫化したもので、その間にいくつかの版があります。
内容は、吉川英治の様々な文章を集めたもので、実は、この部分も上の「吉川英治対話集」の吉屋信子との対談から抜き出したものです。
目次で言うと、第一章『わが青春の時』の中の『追想』という部分に収録されています。

いずれも、絶版で書店での入手は困難でしょうから、図書館でお探しください。

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コメント

吉川先生の名が小さい子供達に刻み込まれるのは、個人的に嬉しいことだと思います。県の教育委員会からの依頼であれば、しっかりとした思いがあってのことと思います。
ここは、ゆっくり先方の回答をお待ちすれば良いのではないでしょうか。

投稿: 佐伯 静雄 | 2007年10月26日 (金) 22時09分

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