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2007年5月13日 (日)

母の思い出

今日は母の日です。

吉川英治が母親想いであったことは何度も書いていますが、今回は、吉川英治が母親を語る時に定番のエピソードを紹介してみます。

人生で二度、母に叱られた、という話です。

一度は、ある夏の日。

暑くて仕方がない日に、突然激しい夕立が降ってきた。
英治は、暑さしのぎにうってつけだとばかりに、裸になって庭に飛び出し、「行水だ、行水だ!」とはしゃぎ始めた。
すると、それを見た母親が血相を変えて庭へ駆け降りてきて、英治を家に引っ張り上げると、「馬鹿、馬鹿、馬鹿、雨にあたると体に毒だと知らないのか」と言って、もう30になろうかという英治を折檻した。

もう一度は、母親の臨終の席。

死を目前にして、苦しげな荒い呼吸を繰り返す母親に対し、少しでも心安らいでもらおうとしてか、英治はこうささやきます。

おっ母さん、極楽が見えるでしょう、長い間御苦労なさいましたが、仏陀は、きっとおっ母さんを極楽に迎えてくれますよ。

すると母親は、虫の息の下から

よけいなことをお云いでない。

と言い、間もなく息絶えた。

英治は、「こう二つの母の叱言は、今も骨身にこたえている」(随筆『胸に住む母』より)と書いていますが、前者のエピソードは、歳を経ても変わらぬ母親の深い愛を示すものとして、後者は十分に報いることが出来なかった母親への悔恨をともなって、胸に残っていたのでしょう。

英治は、こんな句を残しています。

淋しさは叱ってくれる人がない

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