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2007年8月12日 (日)

長野(3)

続いては「さけぶ雷鳥」。

物語は江戸や大阪でも展開しますが、鍵を握る場所は信州なので、ここでご紹介します。
長編であり、しかも事の発端から大団円までには、実に40年ほどの歳月が流れる作品なので、設定と人物紹介だけのあらすじになりますが。

事の発端は、高野山の悩める僧・慈嶽が女と恋に落ち、山から脱走したこと。
その時、慈嶽は高野山の蔵に眠っていた性欲について説いた秘経を持ち出していた。
以来、高野山では慈嶽の消息を追い、秘経を取り戻そうと手を尽くしていた。
俗名の青地林左衛門に戻った慈嶽は、流浪の末、館林藩の祐筆となるが、そこに悲劇の種があった。
藩主が、彼の美しい妻に懸想し、我が物にしようとしたため、妻が自害したのである。
その藩主こそ、後の将軍綱吉。
世を恨んだ彼は、わが子を捨てて、刀の鍔を打つ彫金師・青地光親として、人を避けて生きる道を選ぶ。
それから幾星霜、ある女が光親と出会うことで物語は動き出す。
その女・おちゃら様は、元は町娘のお秀といったが、その美貌に目を留めた柳沢吉保が養女とし、将軍綱吉に差し出した女で、狙い通りに綱吉の寵女となったのであった。
比類なき権力を背にわがまま放題のおちゃら様は、遊びに出かけた信州別所の湯で偶然出会った光親から「将軍のお茶菓子女」と手厳しく面罵されたことを恨み、光親への復讐に執念を燃やす。
一方、柳沢吉保の家臣としておちゃら様に仕える細川圭之介とその妹・仮名江は、実は慈嶽と秘経を探し出すために高野山から送り出された密使であったが、光親こそが捜し求める慈嶽であるとは気づかぬまま、おちゃら様の手駒として使嗾されることになってしまう。
さらに、おちゃら様がお秀だった頃に、将来を誓い合った冬吉とその弟の滝太郎は、かつて光親が捨てて行ったわが子なのであった。
かくして、光親=慈嶽をめぐる因縁は、愚かな悪女の登場で激しく捻じ曲げられ、各人の運命は大きく変転する。
そして、秘経のありかを示す光親作の≪雷鳥の鍔≫に、人々は翻弄されていく。

という見事な伝奇小説です。

初出は『婦人倶楽部』昭和5年7月号~6年12月号。

物語を動かすのが、おちゃら様と仮名江という二人の女であるのは、女性誌への連載だからでしょうか。

「吉川英治全集 補巻4 自雷也小僧・さけぶ雷鳥」(昭和59年 講談社)の後、単行本化されていません。

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