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2007年8月14日 (火)

長野(4)

続いては「恋山彦」。

京・大坂に四国も登場し、しかも、物語が一番派手に展開する舞台は江戸ではありますが、重要な場所が信州なので、ここでご紹介します。

事の始まりは柳沢吉保の下屋敷で開かれた三弦の会。
請われて出席した十寸見源四郎が持参した名器≪山彦≫に惚れ込んだ吉保の愛妾・おさめの方が、山彦を譲るよう源四郎に申し入れてきたのであった。
それを拒絶したため、吉保の権力に追われる破目になった源四郎は、娘・お品とともに関西に落ち延びるが、吉保配下の市橋采女・藍田喬助によって殺害されてしまう。
坂田藤十郎の、「その道の名人となることが権力の非道への敵討ちでもある」という言葉に励まされたお品は、藤十郎のおかけで難を逃れた山彦を持って修業の旅に出る。
だが、執拗な吉保による探索や、その美貌に邪念を抱く男たちに翻弄され、放浪を続けることになる。
そんな彼女がたどり着いたのは、木曽の奥にある虚空蔵山であった。
神域として誰も近寄らぬその場所には、世から隠れて暮らす平家の落人の村があった。
お品がはからずも村に迎えられたのと同じ頃、もうひとつの難題が起こっていた。
吉保が自らの別邸・六義園建設のために、江戸城二の丸普請に名を借りて、虚空蔵山の檜の巨木を上納するよう飯田藩に命じたのである。
藩主・堀美作守の嫡男・鶴之丞は、それに応じることで幕閣としての出世をもくろむ。
かくして、お品と山彦、そして虚空蔵山の檜を求める外部からの圧力によって、深山の平家村はその平和を乱される。
そこで決然と立ったのが、伊那平家の後継者・伊那小源太。
争いの中で捕虜とした鶴之丞を人質とし、先祖が受けた天皇家からの院宣を楯に飯田藩の支配を拒む伊那一党。
そこで、策をめぐらせた吉保らは、小源太たちを江戸城におびき寄せ、まんまと鶴之丞を奪還し、その上、お品と山彦を奪い、切り札である院宣を取り上げてしまう。
罠に落ちたことを知った小源太は、その野性を爆発させ、江戸を恐慌に陥れるのであった。

ちょっと、一昨日の「さけぶ雷鳥」と似ていますね。
柳沢吉保がらみの女のわがままがきっかけで、主人公たちが流浪を余儀なくされる点はそっくりですし、あらすじでは触れませんでしたが、実はどちらの作品でも英一蝶がちょっと絡んできます。

ただし、作品の狙いは異なります。
「恋山彦」では、綱吉治下の腐乱した泰平の世に、純粋な野性の男(英治いわく≪大善魔の巨人))放り込むというところに趣向があります。
伊那小源太をキング・コングになぞらえていることは以前触れた通りです。

初出は『キング』昭和9年1月号~10年3月号。

単行本は「吉川英治全集11 松のや露八・恋山彦・遊戯菩薩」(昭和57年 講談社)が最新となります。

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