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2007年8月24日 (金)

おふくろの味

どうも貧乏育ちのせいか、総じてわたしなどは、茶懐石でも料亭の物でも、うまいといつまでもおぼえていて、あとあと、またの邂逅を舌が待ちかねるというほどな物にはめったにお目にかかっていず、かえって貧窮時代に母がくるしさの余りに作ったおかしな安惣菜などが、ふと、この年になっても郷愁されてくるのはどういうわけのものだろうか。

吉川英治の『舌のすさび』という随筆の一節です。
初出は「あまから」昭和35年5月号ですので、書いた時点で67歳、亡くなる2年半ほど前のものということになります。

この随筆の中には≪母がくるしさの余りに作ったおかしな安惣菜≫と思われるものが、いくつか列挙されています。
自叙伝の「忘れ残りの記」には、あまり「おふくろの味」や、子供の頃食べたものの話があまり出てきませんので、ちょっと抜き出してみます。

≪タラコブ≫=糸昆布と鱈を合わせた汁物。

鱈も安いもんだったし糸こぶなどはなお安い。だから貧乏世帯で子沢山には持ってこいのお惣菜であったのである。汁かげんもシタジの勝った、いわゆる“ショッパ”めな汁だった。

≪ごじる≫=大豆のすりつぶしたものに刻み葱を加えた味噌汁。

もっとりと重い味だが、なかなか捨てがたい。あれこれ味噌汁の添えに飽いた一ト朝など、ふとよいものである。

≪蕗の佃煮≫

蕗といえば、茎ばかりでなく、あの蕗の葉までを細かに刻んで、母は佃煮にしてたべさせた。珍重はできないが、そうまずいものではない。

料理らしいのはこんなもので、あとはいくつかの食材を取り上げています。

鮭は切り身は買わず、一山いくらのあらを買っていたけれども、その中に混じっている≪鎌≫や尻尾の端が美味いと言い、「ひそかに貧者へ与えられていた貧者の味にはそんな余徳があったのである」と書きます。

顧みられなくなって残念だということを書いている食材には、≪揚ゲ玉≫や≪おから≫を挙げています。

もっとも、昭和40年生れの私でも≪おから≫はよく食べた記憶があります。
昭和30年代にはもうノスタルジックな食材になっていたのでしょうか?

≪大根の茎≫もお気に入りのようです。

夏の細根大根が出はじめると、私は大根の葉のぬかみそ漬を好んでお新香に添えさせる。大根では茎がいちばん美味い。(略)私の子供時分にはただでもくれた。そして細かに刻んだのを飯にまぶしては掻っ込んだ。その童味が忘れられないのである。

高級な料理より、結局はこういう食べ物の方が心に残るというのは、よくわかる気がします。

いや、高級料理なんて食べたことはありませんが、私は。

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コメント

わたしもそのような素朴な味が堪りません。
以前にもblogに書き込みさせて頂きました小説家・夢酔藤山です。パソコンが壊れてしまい1ヶ月間の開店休業を経てここに復活。かねて「お気に入り」にしていた箇所を確認するネットサーフィンしております。

宮部先生の申し込み時には既にパソコンが壊れていたため、携帯から慌てて申し込んだのですが、果たして届いたものか……落ちていたら残念至極です。

また来ます。blog楽しみに読ませて頂いております。

投稿: 夢酔藤山 | 2007年8月25日 (土) 10時07分

>夢酔藤山様

宮部さんのイベントの申し込みは、実は受付初日の午前中で定員を超えてしまったため、ご応募いただいた時には既に受付を終了しておりました。
アドレスの廃止手続きをしている間にメールを頂戴したので、ちょっと宙ぶらりんな状態になってしまいました。
申し訳ございませんでした。

来年以降もこのイベントは継続する予定ですので(人は替わりますが)、またのご応募をお待ちしております。

投稿: 片岡元雄 | 2007年8月25日 (土) 10時44分

 「鳴門秘帖」を再度読み始めました。リズム感のある、快い文章で、若い時は一気に読んだのだと思いますが、その時は、一文字、一句をきちんと理解しないまま読んだのだと思います。分からない言葉が出てきました。苦になってなりません、是非お教え下さい。
 中央公論社版(二卷組)の上巻、(上方の巻)の5頁初行「のしお頭巾の女」、7頁初行「のしお形」とあります。「のしお頭巾」は岩田専太郎の挿絵『見返りお綱』がありますので、大体分かりますが、『のしお』という言葉は、『江戸語の辞典』にある、「金魚の名……」という解説でよろしいのでしょうか。
 6頁初行から頭巾の名前が幾つもあり、そのうち「お十夜頭巾」も岩田専太郎の『お十夜孫兵衛』の挿絵と、文がありますので理解できましたが、他の頭巾名の中で
1 露頭巾
2 秀鶴頭巾
3 お小姓頭巾
が分かりません。3の『お小姓頭巾』が『胡椒頭巾』であれば、日本国語大辞典に記載されていますが、その解説のように理解して良いのでしようか。ご多忙中申し訳ありませんが、何卒ご教示くださいますよう。
 愛知県豊明市  山本 寛(76歳)

投稿: 山本 寛 | 2007年8月28日 (火) 14時16分

>山本寛様

難問です。
私は江戸風俗の専門家ではないので、すぐにはお答えいたしかねます。
少々お時間をいただきたいと存じます。
可能な限り調べてみますが、不明の場合はご容赦下さい。

なお、回答は改めてメールを送らせていただきます。

投稿: 片岡元雄 | 2007年8月28日 (火) 16時35分

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