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2008年2月 6日 (水)

通俗三国志

書店で『アジア遊学』という雑誌を見かけました。
2007年12月10日付で発行された第105号に「特集 日本庶民文芸と中国」とあったので手にとって見ると、吉川英治への言及を見つけたので購入しました。

「泣かずに魏延を焼き殺す 吉川英治の読んだ三国志」(竹内真彦)において「三国志」が、「『水滸伝』を母体とした現代日本の小説・コミック」(井上浩一)において「新・水滸伝」が取り上げられていました。

どちらも興味深く読んだのですが、少しだけ残念なことが。

竹内真彦氏の「泣かずに魏延を焼き殺す 吉川英治の読んだ三国志」は、タイトルの通り、吉川英治が執筆の際に依拠したテキストは何であったかを考察した文章です。
そして、これもタイトルにある通り、吉川「三国志」の中に、孔明による魏延焼殺の謀が描かれていることから、このエピソードを含んでいる「通俗三国志」に依拠していたと述べるわけです。

しかし、吉川英治が「通俗三国志」を種本に使用したことは、別に秘密だったわけでもなんでもなく、知っている人には以前から知られていたことです。

2006年にリニューアルした当館の図録にも記載されていますし、吉川英治が使った帝国文庫版「通俗三国志」をいま現在、常設展示の中に出してもいます。

それどころか、吉川英治自身が、「三国志」の単行本の序文に

原本は「通俗三国志」「三国志演義」その他数種あるが、私はそのいずれの直訳にもよらないで、随時、長所を択って、わたくし流に書いた。

と明記しているのです。
これはいまも発売中の吉川英治歴史時代文庫版にも収録されています。

読後感からすると、竹内氏の論じたかったことは、むしろ、「通俗三国志」と「三国志演義」の違いにこそあるのだと思うのですが、「吉川英治が『通俗三国志』に依拠していた」ということを論じるのに紙幅を割きすぎて、それが不十分に終っている感じを受けます。

自明のことを述べるのにもったいぶらないで、さっさと「吉川英治は『通俗三国志』を用いた」と言ってしまえば良かったのに、と、もったいない気がするのです。

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コメント

はじめまして。

突然コメントするご無礼をお許しください。

拙文の不備をご指摘いただき感謝いたします。
仰る通りで、すでによく知られていることについて
勿体をつけすぎた文章であったと反省しております。

少し言い訳をさせていただければ、
拙文の主題は『三国志演義』に複数エディションがあると
いうこと、そしてそのエディションの違いというものが、
意外と認識されていないことを指摘することにありました。

そのための(言葉は悪いですが)「まくら」として
吉川三国志を用いたわけですが、
確かに冗長に過ぎたかと思います。

ご指摘は向後の研究の糧としたいと思います。
本当に有り難うございます。

投稿: 竹内真彦 | 2008年2月12日 (火) 16時06分

竹内真彦様

コメントいただき、恐縮に存じます。

私は「三国志」そのものについても、その日本への伝わり方についても全く無知なもので、そちらの方をもう少し詳しく紹介して欲しいのに、なんだか物足りないな、という気持ちから上記のような文章を書きました。
要は、前半もう少し簡単に通過していれば関羽のことを割愛しなくても済んだのに、そこをもう少し読みたかったな、ということなのです。

それだけで他意はないのですが、いささか非難がましい文章だったかもしれません。
ご容赦下さい。

なお、厚かましい話ですが、この機会に、「三国志演義」の諸本や「通俗三国志」の相違について述べた手に入りやすい書籍などご紹介いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

投稿: 片岡元雄 | 2008年2月13日 (水) 14時02分

『演義』諸本の関係については、

中川諭『「三国志演義」版本の研究』
(汲古書院、1998年)

という専著があります。
ただ、専著ゆえに詳細に過ぎ、
全体を概観するにはかえって不便かも知れません。

比較的手に入れやすい概説書としては、

金文京『三国志演義の世界』
(東方選書、1993年)

が挙げられます。

ただ、いずれにしろ10年以上前のものですので、
最新の研究状況を反映できていない嫌いはあります。

『通俗三国志』と原書との差異については、

田中尚子『三国志享受史論考』
(汲古書院、2007年)

にやや詳しい言及があります。また、

徳田武編『対訳中国歴史小説選集/三国志』
(ゆまに書房、1984年)

は、『三国志演義』の李卓吾批評本(蓬左文庫蔵本)の
影印ですが、上段に原文と対照させる形で
『通俗三国志』(明治44年出版の活字本)の本文を
掲載しており、二者の違いを実際に検討するには
必須資料かと思います。
(現在では入手困難でしょうが、
所蔵している図書館はかなり多いはずです)

こんなところでしょうか。
お役に立つことができれば幸甚です。

投稿: 竹内真彦 | 2008年2月14日 (木) 13時04分

竹内真彦様

厚かましいお願いに懇切なご返信を賜り、痛み入ります。
少し勉強いたしたいと存じます。

ありがとうございました。

投稿: 片岡元雄 | 2008年2月14日 (木) 16時01分

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