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2008年2月14日 (木)

心配

再び「吉川作品の挿絵・装丁画の世界」展について。

今回は挿絵そのもの以外に、挿絵に関連する資料も若干展示しています。

そのうちのひとつが吉川英治が新井弘城に宛てた葉書です。

これがどういう点で挿絵と関係しているかというと、文中にこんな一節があるのです。

絵はとみや氏ですが 同君は代作を使ふらしい懸念があるので 女房役にづぼられてはと それが心配です まだ旅行先なので発表を見ませんが 御批判を願ひます

昭和8年8月、吉川英治は高野山の宿坊にしばらく滞在し、そこで執筆をしていました。
葉書は8月9日に書かれたものです。

その前日の8月8日から朝日新聞紙上に吉川英治の「女人曼荼羅」という作品の連載が始まりました。
その作品の挿絵を担当したのが、小田富弥でした

つまり文意は、「旅行先のためまだ掲載紙面を見ていないが、小田富弥には代作を使うという噂があるので心配だ、もしそんな様子が見られたら批判して下さい」ということなのです。

小田富弥は、林不忘の「丹下左膳」の挿絵で知られる人気挿絵画家であり、吉川英治の作品でも「女人曼荼羅」以前に「処女爪占師」(昭和4~5年)、「勤王田舎噺」(昭和6年)を、以後にも「山浦清麿」(昭和13年)を担当しています。

その小田富弥に、吉川英治はそんな懸念を持っていたんですね。

実は、その懸念は当たってしまいます。

3日後、8月12日付で弟の晋宛に送った書簡には、こんなことが書かれています。

今日 例の小田富弥の第五回目の雪葉の絵にすっかり失望と 彼氏の不誠実な仕事ぶりにふんがいし 長文の警告文 原稿紙十一枚を一気に書いて 原稿と共にやす子に大阪へ持たせてやった
(略)
一体ああいう生ぬるッこい仕事をして よく大新聞に平気で出せると思って 僕は不思議でならないよ 下手上手は別問題 好評不好評も別問題 要は 仕事に対する男性の誠意があるか無いかだ

随分なご立腹ですね。

もっとも、以前触れた「新・平家物語」や「私本太平記」と違って画家の交代に至らず、昭和9年4月24日の最終回まで小田富弥が挿絵を務めたところを見ると、次第に吉川英治にとって満足のいくものになっていったのでしょう。

作家と挿絵画家の葛藤が垣間見える資料です。

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