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2008年6月 4日 (水)

多摩(1)

さらに名を出したついでに、続編の「野槌の百」もご紹介。

ちなみに、東京都内を舞台にした作品は数が多いので、江戸府中とそれ以外に分けて、とりあえずそれ以外の地域は≪多摩≫という括りにしておきます。

復讐のため村上賛之丞から、お稲を奪った安成三五兵衛であったが、お稲に子が出来たため、足手まといになってきた。
そこで、とりあえずお稲と赤子を知人に預けようと、二人を連れ江戸へ向かう三五兵衛。
ほとぼりがさめるまでと身を隠していた信州から、甲州裏街道を青梅に抜けて、八王子あたりまで来たところで、田無の野鍛治で百という男と出会う。
百から近くに賭場が出ていることを聞き出した三五兵衛は、その賭場でいかさまを働き、それが露見して逃走する。
置き去りにされたお稲を、いかさまにあった博労たちが人質に取り、三五兵衛をおびき出すために、入札にかけて売り飛ばそうとする。
入札の当日、意外にもお稲を競り落としたのは、お稲に惚れた百であった。
百の家は、代々の刀鍛治で、自身も山浦清麿の弟子として将来を嘱望されていたのだが、師匠の金を盗んだという濡れ衣を着せられ、破門になったため、野鍛治に落ちぶれていた。
その先祖伝来の屋敷や土地を担保に金を借り、お稲を落札したのであった。
落札したお稲を家に連れ帰った百だが、借金の問題や、お稲の歓心を買うためにも、どうしても金が欲しい。
とうとう、かつての師匠・清麿の贋物作りに手を出してしまう。
江戸へ出て、その贋物を売り歩く百だが、それが露見して、かつての兄弟子たちに捕らえられてしまう。
そんな百を、なぜか清麿の娘・お袖が逃がす。
お袖の口から、清麿も今ではかつてのことは濡れ衣だとわかっていること、その濡れ衣を着せたのは柳橋の小稲という妓だったことを聞いた百は、その小稲こそお稲のことであると気がつく。
江戸から戻った百は、百の居ぬ間に賛之丞と密会していたお稲を、賛之丞もろとも殺害すると、老母と、あとに残ったお稲の子を連れて、どこへともなく旅立つのであった。

初出は『週刊朝日』昭和7年夏期特別号(6月1日発行)。
「八寒道中」から3年後に、掲載誌を変えて書かれた続編となります。

吉川英治は同じ登場人物(実在の人物は別として架空の創作した人物)を複数の作品に登場させるということをほとんどしていません。
その数少ない事例が、この2作品です。

これも「吉川英治歴史時代文庫75 治郎吉格子 名作短編集(一)」(講談社 刊行中)に収録されています。

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