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2008年10月 9日 (木)

『篇外余録』の謎

さて、実は、その「三国志」新装版の担当者の方から、物語が終った後に『篇外余録』があるのもすっきりしないので削除したいのだが、これは初めからあるものなのか?という問い合わせを受けてました。

吉川英治は長期にわたる小説の連載中に、物語を小休止して、途中に随想を挟むということを、しばしば行っています。
よく知られているのは「新・平家物語」や「私本太平記」の連載中に挟んだ『筆間茶話』というタイトルの随想です。
これらは本編とは切り離され、「随筆新・平家」「随筆私本太平記」として別に単行本化されています。

では、この「三国志」の『篇外余録』はどうだったのか?

問い合わせを受けて調べてみたところ、以下のようなことがわかりました。

吉川英治の「三国志」は、『中外商業新報』という新聞に昭和14年8月26日から連載が始まりました。

『中外商業新報』は、現在の『日本経済新聞』の前身ですが、『日本経済新聞』になるまでに合併などで何度か紙名が変わっています。

「三国志」連載中の昭和17年11月1日にも、『日本工業』『経済時事』という二つの新聞と合併して『中外商業新報』から『日本産業経済』に紙名が変更されています。

「三国志」は紙名変更直前の10月30日に連載第949回に達していましたが、変更後は11月3日を第1回とする「新編 三国志」に改題されています。
といっても、内容はそのまま継続されているのですが。

そして、翌18年8月19日に第228回で本編が終了しています。
ところが、その翌日の8月20日から『篇外余録』が書き進められ、9月5日まで15回連載されたところで、完全に連載が終了となります。
全てあわせれば1192回の連載となります。

つまり、『篇外余録』は、連載の時点から物語の終了後に追加されていたんですね。

物語がキレイに終了した後に、どうしてそんな蛇足ともいえる部分を追加したのかといえば、おそらくは日付に関係があるのでしょう。

連載小説を次のものに切り換える時は、やはり切りのいいところで切り換えたいもの。
8月19日に前の作品が終って、翌20日から次の連載というのは、中途半端な感じになってしまいます。

昭和18年のカレンダーを見ると、8月31日は火曜日で、9月5日は日曜日。
8月31日で終ると週の途中での切り換えになるので、9月5日まで連載して、翌週から新連載を始めたかったのでしょう。

そう考えると腑に落ちます。

ただ、吉川英治の他の新聞連載作品を確認してみると、中途半端な日付で連載を始めたり終えているものはいくらでもあります(例えば「宮本武蔵」の連載第1回は昭和10年8月23日で金曜日、最終回は14年7月11日で火曜日)。

それなのに、なぜ?

ちょっと謎です。

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コメント

あの「篇外余録」が物語が終わった「あと」なんですか?
「篇外余録」も含んでの「吉川三国志」ではなかったのですか?
その講談社の担当はちゃんと読んでいるんですか?

物語がキレイに終了した後って・・・
学芸員方でもそういう認識でいらっしゃったなんてがっかりです。
わたしは最後の一文、
「三国は、晋一国となった。」
これを目にするたびに
曹操が玄徳が孔明が生き抜いた物語の終演と、どの国も残れなかった無常に涙せずにはいられません。

投稿: 泣泣 | 2008年10月24日 (金) 23時43分

新装版の『三国志』を読んで、篇外余録がないことに驚きました。余韻に浸るどころか、悲しみと怒りでいっぱいです。名作の価値が台無し。新装版は捨てて、吉川英治歴史時代文庫で買い直すつもりです。
まさかこれを狙って、わざと中途半端な作品を出版したわけではないですよね…。

投稿: 不信 | 2009年8月13日 (木) 01時32分

私も『篇外余録』のない吉川三国志を読んで落胆した1人です。
学芸員さんは『篇外余録』を蛇足と書かれていますが、これは以下のどちらなのでしょうか?
1)『三国志』を実は全編通して読んではいない
2)『三国志』を読んだが、篇外余録は蛇足としか思えなかった
どちらだとしても悲しいですが…。

『篇外余録』があっても(蛇足だと思う人がいたとしても)悲しみ怒る人はいませんが、『篇外余録』がないことで悲しむ人、怒る人は少なからずいると思います。だとしたら、変な割愛はせずに吉川三国志の"全て"を掲載して刊行する方がいいと思いませんか?

蛇足かどうかの判断は著者本人もしくは読者によるべきであって、後世の編集者にゆだねられるべきではないと私は考えるのですが如何でしょうか。


投稿: 質問 | 2009年8月18日 (火) 00時57分

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