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2008年12月23日 (火)

文藝の三越――川柳部門

さて、ここで川柳部門について少し詳しく見てみましょう。

川柳部門は一等1人、二等2人、三等5人、四等10人、それと撰者である井上剣花坊の作品が2句の、合計19人20句が、この冊子に掲載されています。

一等はもちろん≪吉川独活居≫こと吉川英治ですが、以前触れたようにその作品は

駿河町地を掘り空へ伸してゆき

というものです。

残りの当選者17人の中に、吉川英治と親しかった花又花酔の名が見えます。
花酔は「生まれては苦界死しては浄閑寺」の句で有名ですが、ここでは

駿河町凡そ天地の美をあつめ

で四等になっています。

この2人の師であり撰者でもある剣花坊の句は、この2句です。

駿河町引きぞわずらふ気味があり
竹の間にさながら天女あまくだり

三等に佐瀬雲雨閣という名がありますが、剣珍坊と言った方が通りがいいでしょう。
この人物も剣花坊の柳樽寺川柳会の同人です。
当選作品は

寄せ切れの腕をおもちやへ引つ張られ

尾藤三柳編の『川柳総合辞典』に名の見える人物が他に2人います。

二等の平瀬蔦雄は読売川柳会の作家ながら川上三太郎・寺井紅太郎らと千鳥会を結成した人物。
当選作品は

三越の話に読書向き直り

四等の藤波楽斎は、明治期の川柳界を牽引した人物の1人だそうです。
そんな人物がどうして懸賞に応募したのでしょう?
作品は

三越で買つたとぬかすやなぎはら

雉子郎=吉川英治に「柳原涙の痕や酒のしみ」という作品もありますが、柳原が当時の古着屋街だったことを踏まえると、意味がつかめてきます。

三等に「下谷 森井深編笠」という人物が入っています。
手元の資料には「深編笠」という号は確認できませんが、下谷の森井というと森井荷十のことでしょうか?
だとすれば、窪田而笑子門下の人です。
作品は

三越に委せ都の人となり

川柳部門以外のところで川柳人の名を見つけました。

一口噺の四等に、大阪で活躍した麻生路郎が入っています。

番頭「新橋と上野の中の呉服店どちから来ても橋を三越――、どちから来ても橋を三越か、全く巧いね」
小僧「それぢや番頭さん、深川や麹町から来たらどうなります」

というのが、その作品。

「新橋と上野の中の呉服店どちから来ても橋を三越」というのは、当時の宣伝文句だったのでしょうか?
それをおちょくったのでは、四等もいたし方なしというところでしょうか。

川柳部門以外というと、写生画部門一等の池田永治の名に、なんだか見覚えがあると思って調べてみたところ、池田永一治と同一人物でした。
池田永一治ならば、個人的に買い集めた『川柳漫画全集』に漫画を描いている画家の1人です。

確認してみたところ、『川柳漫画全集10 ユーモア・ビル 大正の巻』では、雉子郎の句も絵にしています。
ちなみに、その句は

世の中におふくろ程なふしあわせ
貰はれて行く子に袂ただ嬉し

の2句です。

果たして、同じ懸賞で共に一等になった2人の≪エイジ≫の間に、何らかの交流はあったのでしょうか?

こういう状況を見るとありそうな気もしますが、残念ながら確証はありません。

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コメント

 父親「池田永治」について検索していて、草思堂様の頁に行き着きました。私は永治(1889~1950、永一治、牛歩、田牛、牛、Ushiと号す)の末っ子の長男です。
父親と51歳違いで、私が10歳の時に永治は亡くなりましたが、近年遺したもの、私が集めたもので、「西宮詩夫の世界」というHPを作り、その中の「池田永治の世界」に年譜、収集した著作物などを掲げております。
 永治は博文館の雑誌「中学時代」「文章世界」の挿絵に応募して絵心を燃やし、上京して太平洋美術学校に学び画家、漫画家として生計を立てていきましたが、博文館の著作物の装幀、挿絵画家として深く関わっております。
 浅学な私にはその程度の共通点しか浮かびませんが、もしお手すきの折に、HPの関連箇所をご笑覧いただければ幸いに存じます。
 身内びいきの勝手なお便りをご海容ください。ご研究のご成果を願っております。
 
 

投稿: 池田辰彦 | 2009年1月 6日 (火) 16時10分

>池田様

遅くなりましたが、ご拝読およびコメントを頂戴し、ありがとうございました。
サイトも拝見させていただきました。
サイトで公表されている書簡類の中に吉川英治のものがなかったのが残念なところですが、吉川英治の親友であった川上三太郎の名があったのは興味深いところです。
何か吉川英治とのつながりが見つかりましたら、ご教示いただければ幸いです。

投稿: 片岡元雄 | 2009年1月 9日 (金) 16時56分

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