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2009年5月 5日 (火)

向島百花園と吉川英治――その2

で、「馬に狐を乗せ物語」ですが、こんなお話。

松井漫太郎、伊波凡舟、貝場迦羅三、木野目田楽、新川夢吉の悪友5人は、おけら吟社なる会の同人で、吟社きっての変物たち。
この5人が、吟社の月番幹事として、向島百花園を会場に≪納涼小集臍交観会≫というふざけた例会を企画した。
さて、例会はまだ明日だというのに、漫太郎と凡舟の両名、さっそく料理屋に繰り出し、さらに迦羅三、夢吉も加わって、各所で小さな騒動を起こしながら、吉原に出かけてさらに大騒ぎ。
家にも帰らずに例会当日を迎えて、みな百花園に集まると、同人たちと≪臍(へそ)交観会≫に興じる。
しかし、そこには一同とは訳ありの人たちも集まってきていた。
さて、どんな悶着が起こるやら。

滑稽小説なので、オチは伏せておきましょう。
というか、ストーリーらしいストーリーもない、珍妙なエピソードを積み重ねた作品なので、それをいちいち書いていては、とても短くはまとめきれません。

この中心となる悪友5人には、吉川英治が親しくしていた川柳仲間の姿が、色んな形で取り込まれています。

≪松井漫太郎≫は、名前の響きは親友であった≪川上三太郎≫によく似ています。
また、肥満気味で、新聞に漫画を連載している、という設定は、≪宮尾しげを≫を思わせます。
さらに言えば、自宅が浜町というのは、吉川英治自身が向島寺島の前に住んでいた場所でもあります。

≪伊波凡舟≫は、名前だけでも≪伊上凡骨≫がモデルなのは、明らかです。
「漫太郎のお父さん程年上」というのも吉川英治の同世代から見るとその通りですし、吉原で喘息の発作を起こして人を驚かせるという作中のエピソードは、実際に凡骨の身に起こった出来事であることを、吉川英治は随筆に書いてもいます。

≪貝場迦羅三≫は、紐育の銀の相場に興味があって、兜町に勤務しているという設定ですが、後年、谷孫六のペンネームで蓄財法の本を書いてベストセラーとなった≪矢野錦浪≫を想像させます。

≪木野目田楽≫は、字面から≪木津柳芽≫を思わせますが、描写が少なく、それ以上の想像はできません。
 
≪新川夢吉≫は、「霊岸島の酒舗」という設定で、霊岸島生まれの≪西島○丸(れいがん)≫を想起させます。
名前からは≪海野夢一佛≫も思い浮かびます。
また、強固な江戸趣味を持つという設定は阪井久良岐の流れを汲む人物を想像させますが、≪前田雀郎≫あたりでしょうか。

この夢吉と漫太郎が、江戸趣味とは何かで論争をする場面がありますが、大正時代半ばの川柳界の空気を伝える場面になっていると言えるように思います。

現在、当館で特製文庫として販売している『江の島物語(初期作品集)』で読むことが出来ます。

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