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2009年7月14日 (火)

再録

さて、改めて企画展「書簡に見る吉川英治の交遊」で展示中の書簡について。

ご紹介するのは吉川英治宛邦枝完二書簡。

邦枝は「おせん」「お伝地獄」などで知られる作家です。

封筒には宛先住所が書かれておらず、切手・消印が無いので、人に託して英治に届けたもののようです。
そのために正確な年月日はわかりませんが、内容から昭和23年4月10日のものと推定できます。

その内容は、雑誌『話』の復刊にあたって、英治に旧作でよいので作品を提供して欲しいと求めているものです。

雑誌『話』は、もともと文藝春秋から昭和8年に創刊された総合読物雑誌でした。
昭和15年まで発行されましたが、別に発行されていた『現地報告』という雑誌に統合され、姿を消しました。

その『話』を、鱒書房社主の増永氏が、菊池寛の許可を得て復刊することになったが、5月末までに発行しないと紙の割り当てが取り消されるので、時間が無いため、旧作の再録で何とかしたい、というようなことが書かれています。
邦枝は増永氏と旧友のため相談を受けており、それで邦枝が英治に手紙を送ったもののようです。

ちなみに、邦枝が選んだラインアップは永井荷風・里見弴・吉屋信子・英治・自分となっています。

昭和20年代前半、敗戦後の世相の中で雑誌ブームが起き、いわゆるカストリ雑誌がたくさん生まれては消えていきました。
そんな中、知人から依頼を受ける形で、そうした雑誌に英治は戦前に書いた作品の再録を許しています。
調査を尽くせてはいませんが、昭和23・24年あたりに雑誌再録されたものを10作品以上確認しています。

さて、この『話』はどうなったのでしょうか。

無事、昭和23年6月号をもって復刊されたようです。
ようです、というのは、現物を確認しようと国会図書館に出向いてみたら、第2号からしか所蔵がなく、見られなかったからです。
ただ、当館にはその復刊第1号の切抜きが所蔵されています。

というのも、英治は邦枝の要望に応えて作品を提供し、その掲載部分のみを切り抜いて保管してあったからです。

その作品の名は「春の雁」。
もともとは「春燈辰巳読本」のタイトルで昭和12年7月発行の『オール読物 臨時増刊号』に掲載された作品です。
なお、タイトルは、再録時ではなく、単行本収録時に変更されたものです。

また、英治は、「春の雁」の他、昭和23年10月号にも「みじか夜峠」を提供しています(初出は『週刊朝日』昭和10年銷夏読物号)。

ちなみに、オリジナルの『話』は第8巻第5号まで発行されたのですが、復刊された『話』は、復刊の建前通り、第9巻第1号からスタートしています。
発行は≪話社≫となっていますが、編集・発行人が≪増永善吉≫となっていますので、邦枝の手紙と符合します。
ただ、最終的に何冊発行されたのかはわかりませんが、復刊の翌年、昭和24年には誌名が『夫婦生活』に変えられ、『話』の名は消滅したようです。

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