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2010年10月20日 (水)

神奈川(1)

先日の重松清さんのお話の中に「かんかん虫は唄う」が出てきましたので、久しぶりに作品の紹介をしてみます。

「かんかん虫は唄う」

時は明治の中頃。
横浜の貧民街であるイロハ長屋に病人の母と住む“かんかん虫のトム公”は、≪プリンス≫とも呼ばれる人気者。
14歳の少年ながら世間馴れしていて、職にあぶれた貧しい長屋の仲間たちに仕事の斡旋などをしてやっている。
今日も今日とて、投機に失敗して落ちぶれてしまった元官吏の亀田を横浜ドックの仕事に押し込んでやった。
ところが、その亀田が仕事に送り込まれた先の入港中の外国船で、宝石の紛失騒ぎが起こり、亀田が犯人として警察に逮捕されてしまう。
人の良い亀田がそんなことをするはずがないとトムは弁護するが、受け入れられない。
宝石の持ち主は、石炭運びの人夫から身を立てた豪商・高瀬理平の夫人のお槙。
そこでトムは高瀬理平に対して、亀田の冤罪を訴え、身柄を貰い下げてくれるように掛け合うが、高瀬は聞き入れないどころか、トムを恐喝で警察に訴える。
そこでトムは、愚連隊の仲間たちを糾合して、真犯人探しと貧乏人を人とも思わぬ高瀬夫妻への仕返しを目論む。
同じ頃、大隈重信が横浜にやって来て、友人である千坂男爵の娘・桐代のことを料亭の女将に話し、その消息を探してくれるよう依頼していた。
嫁ぎ先で不貞をなし、以後、転落人生を歩んだまま、行方不明になっている桐代が横浜にいるらしいというのだが、それこそがトム=千坂富麿の母親であった。
やがてトムたちは宝石泥棒の真犯人を見つけ、高瀬夫妻の前で亀田の無罪を証明し、高瀬夫妻を謝罪させることに成功する。
そして、その過程で身元が分ったトムは、妹の菊とともに千坂家に引き取られることになる。
ところが、金持ちも華族も嫌いだと言い放って、トムは姿を消してしまう。
愚連隊の仲間の元に戻ったトムは、しかし、すぐに逮捕され、八丈島の最不良児感化院に送られることになった。
船で護送されるトムを見送りに来た人々の中には、愚連隊仲間に混じって無事に釈放された亀田の姿もあった。

初出は『週刊朝日』昭和5年10月26日号~6年2月8日号。
現行の「吉川英治歴史時代文庫」にも第8巻として収録されています。

吉川英治が青少年時代を過ごした明治の横浜の雰囲気を色濃く伝えているだけではなく、吉川英治の父・直広が世話になり、後に悶着を起こして決別することになる実業家の高瀬理三郎に似た名前の高瀬理平が登場したり、実在した人気騎手・神崎利木蔵を思わせる島崎という騎手が登場したりといったあたりにも興味を引かれる作品になっています。

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