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2011年2月19日 (土)

忍者と麻の実(2)

前回から10日も経ってしまいましたが、続きを。

さて、この「麻の実を蒔いてその上を毎日跳ぶ」という修業法について「天兵童子」と「宮本武蔵」を再確認していて、以下のことに気がつきました。

まず、最初にこの修業法を描いた「天兵童子」では、吉川英治はこれを「武芸の修業」としていて、“忍法の修業”とはしていません。
この修業法を伝えた南木菩提次も、敵地に間者として潜入してはいるものの、本来は「信長の旗本」であると書かれています。

これに対して、「宮本武蔵」では、柳生兵庫助から、どうしてそんな修業をしたのかを問われた丑の助に、

「おらの村にゃいねえが、少し奥へ行くと、伊賀衆だの、甲賀衆だのっていう、忍者のやしきが幾らもあるで――その伊賀衆たちが、修行するのを見て、おらも真似して、修行したんだ」

と答えさせています。
ここで、忍者と麻の実の修業法が結びついています。

その意味では「宮本武蔵」によって、この修業法が忍者の修業法として世に広まったのかもしれません。

ところで、夏目氏は

「忍者」「忍法」は、年表の限りでは57~58年に白土、山田が使っている。。もちろんそれ以前に用例があるかもしれず、厳密には戦前の立川文庫~講談社「少年講談」シリーズ、少年小説などを調べないとはっきりしたことはいえない。

と書いています。
続けて「けれど、用例の前後は主ではない。気になったのは、なぜ戦後に「忍者ブーム」が起きたのか、ということだった」と書いているので、戦前にはさして興味もないということでしょうが、あえて「用例の前後」を考えてみると、上記のように、吉川英治は「宮本武蔵」の中で≪忍者≫の語を用いています。

また、「天兵童子」の中では≪忍法≫の語を用いている箇所があります。
主人公・天兵のライバルとなる石川車之助、後の石川五右衛門の出自について「幼少から伊賀の忍者について、忍法を練磨したという曲者」と表現しています。

吉川英治最後の少年小説である「天兵童子」に出ているのなら、最初の少年小説「神州天馬侠」はどうかと見てみると、こちらにもありました。

この作品のクライマックスは武州御岳山での兵法大講会の試合です。
その試合の項目について

「たとえば、武道の表芸、弓術、剣法はもちろんのこと、火術、棒術、十手術、鎖、鉄球、手裏剣の飛道具もよし、あるいは築城の縄取りくらべ、伊賀甲賀の忍法も試合に入れ、かの幻術と称する一派の技でも、自信のあるものは立合いをゆるすつもりでございます」

と説明しています。

「神州天馬侠」は『少年倶楽部』大正14年5月号~昭和3年12月号に連載された作品です。
つまり、昭和の初めには≪忍法≫の語は存在したことになります。

もちろん、これは吉川英治の作品の中だけなので、もっと遡れる可能性はあります。
それは小手先の調査では調べようもないので、ここではこれ以上はつっ込みません。

ところで、戦前に忍者の末裔を名乗って活躍した藤田西湖という人物がいて、吉川英治はこの人物と雑誌の企画で座談会を行なっています(吉川・藤田以外の出席者は大下宇陀児と阿部真之助)。
それが『サンデー毎日臨時増刊 新作大衆文芸』(昭和11年5月1日発行)に掲載された「忍術を語る」ですが、これを読むと、≪忍術≫≪忍道≫、≪忍者≫≪忍術家≫の語は出てきますが、≪忍法≫は出てきません。
≪忍者≫を名乗る人物は≪忍法≫の語は用いないようです。

ということを確認していて、ある見落としに気がつきました。

座談の中で、藤田西湖がこんなことを語っています。

この練習には三年間の練磨が必要です。一坪の土地に麻の実を蒔いて――麻の実は非常に延びが早い。毎日目立つて延びて行きます。その上を毎日毎日跳ぶのです、自然に高く跳べるようになるのです。

伊藤彦造の話から吉川英治の創作だと思い込んでいましたが、作品に書く前に、藤田西湖の口から聞いていたことになります。
一度読んでいる文章なのに、この件を忘れていました。お恥ずかしい。

ということは、ネタの大元は藤田西湖で、吉川英治は世に広めただけ、ということになるのでしょう。

もっとも、藤田西湖は三年が必要としているものを、吉川英治は短期間で飛躍的に跳躍力がつく練習法のように書いているところが異なっていますが。

ちなみに、これが本当の忍者の訓練法なのかについては、少々眉唾な気がします。
何しろ、藤田西湖は、この件の直前に、風呂敷を両手と口で三方に広げてパラシュート状にして四十五尺(およそ13.5メートル)の高さから飛び降りることに成功した、という話をしているのです。
どうにもうさんくさい(笑)

ここから先は藤田西湖研究ということになるので、私は手を引きます。

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