吉川英治のことば(1)
さて、どのあたりからご紹介しましょう?
希望を持ちたいという思いを込めたものをいくつかご紹介するところから始めてみましょうか。
花々々鳥々々のこの国は四季のよろこび生きあかぬかも
今回の展示品にはありませんが、吉川英治が終戦翌年の春に詠んだ「いじらしや国敗れても梅は咲く」という句があります。
この短歌そのものは、移り変わる四季それぞれの美しさには飽きることがない、ということを歌っているわけですが、私は上記の句を踏まえて、「人間の世に苦しみは絶えないけれど、人の思いとは関係なく、四季の自然の営みは繰り返され、それはよろこびに満ちている、それを心に留めておきたい」という思いで選んでみました。
雪山春不遠
吉川英治の座右の銘に「朝の来ない夜はない」(これも出品)というものがあります。
このことばも、同様のものです。
ちなみに、このことばには、「私本太平記」執筆の際、取材旅行で訪ねた足利氏の菩提寺である鑁阿寺で揮毫したというエピソードがあります。
戦時中の天皇崇拝の強かった時代には、逆臣足利尊氏の縁の寺として不遇であった鑁阿寺にこのことばを贈ったのは、時代が変われば人の評価も変わる、不遇な時代ばかりではない、という気持ちが込められているのでしょう。
たのしみあるところにたのしみ たのしみなきところにもたのしむ
「たのしみなきところにもたのしむ」というのは、なかなかできることではありませんが、辛さや苦しさに絡めとられているばかりでは、やりきれません。
こうした心の余裕を持ちたいものだと選んでみました。
病むもよし病まば見るべし萩すすき
吉川英治が親しくしていた棋士の升田幸三に贈ったことばです。
体調を崩していた升田に対し、焦りを戒め、後の大成のために休むのも悪いことではないと諭したものです。
何か妨げがあって思うように物事が進まない時でも、むしろそうした時こそ、一度立ち止まって周りを見るゆとりが必要だ、ということでしょう。
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「没後50年記念 読み継がれる吉川英治文学」
野間記念館にて 3月4日まで
北九州市立文学館にて 4月21日から
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