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2012年3月22日 (木)

登山

また、名言関連の問合せがありました。

吉川英治の名言に

登山の目標は山頂と決まっている。しかし、人生の面白さはその山頂にはなく、かえって逆境の、山の中腹にある。

というのがあり、ネットでは「宮本武蔵」が出典とされていますが、どこに登場していますか?

そういうお問合せです。

これは「宮本武蔵」ではないはずだが、と思いつつ、確認するので改めて連絡をくださいと言って電話を切り、すぐに調べてみました。

案の定、出典は「宮本武蔵」ではなく、「新書太閤記」でした。
現在も刊行されている「吉川英治歴史時代文庫」で言えば、最終巻にあたる11巻に『関白』という章があり、そこに登場します。

そして、例によって、引用が正確ではありません。

登山の目標は、山頂ときまっている。しかし、人生のおもしろさ、生命の息吹の楽しさは、その山頂にはなく、却って、逆境の、山の中腹にあるといっていい。

≪名言≫として紹介するには、フレーズが簡潔ではないので、最初の紹介者の方が、≪余分≫なところを削ったんでしょうねぇ。
あとはコピペで増殖していったのでしょう。
誰も原典にあたらずに。

ちなみに、この部分は、著者吉川英治が、秀吉の人生を振り返って、その人生観を語っているもの。
≪名言≫として切り抜くには、上記の部分が一番それらしいところですが、前後にもう少し色々なことを語っていますので、ワンフレーズだけでなく、前後も読んで味わってみてください。

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2012年3月 2日 (金)

目玉

ああ。
野間記念館の会期終了までなるべく毎日更新すると宣言しながら、3日で力尽きてしまいました。
もう、明後日で終了してしまいます。

いまさらですが、駄目押しに。

この没後50年展については、広報のためのリリースをマスメディア各社に送付しました。
思った以上に反応が薄く、ガッカリしたのですが、それでも何社かから問合せがあり、記事にもなりました。

さて、その問合せの際、どの社の方も異口同音に「で、この展覧会の目玉は何ですか?」という質問をされました。

この質問が、私のちょっと引っかかるところで、どうもいつも言葉に詰まってしまうのです。

井上雄彦さんから拝借した「バガボンド」の原稿や、井上さんがこの展覧会のために書いてくださったイラスト入りの挨拶文などはなかなか見る機会がないものでしょう。
あるいは川本喜八郎さんにご寄贈いただいた平清盛の人形や三国志の人形は、当館内では常時は展示していないものです。
また、吉川英治旧蔵の宮本武蔵書簡や宮本武蔵画とされる「蓮池翡翠図」などは、歴史的にも貴重な資料です。

どれも“目玉”と言えるものですが、しかし、どれも吉川英治自身の創作ではありませんし、自身に関わるものでもありません。
それを前面に押し出すのには、どうしても抵抗があります。

もう長年にわたり吉川英治記念館に勤務している身としては、吉川英治の遺したものは、どれも貴重で、目玉なのです。
だから、どれとは言いにくいのです。

そんなわけで、問合せに対しては、あまり館では展示していないものを2点紹介してみました。

ひとつは「病気見舞い寄せ書き」。

吉川英治の晩年の頃、文壇ではゴルフをする人が多く、出版社が主催するなどして≪文壇ゴルフ大会≫がしばしば開かれていました。
昭和36年、ガン療養中の吉川英治があるゴルフ大会を欠席したところ、吉川英治と交流のある参加者が、見舞いのための寄せ書きをした、というのがこの資料です。
ちなみにそこに名のあるのは、以下の人たちです。

正宗白鳥/今日出海/池島信平/丹羽文雄/石坂洋次郎・うら子/横山泰三/吉屋信子/永井龍男/益田義信・桑子/水谷準/佐佐木茂索・泰子/石原慎太郎/野間省一/横山隆一/獅子文六/宮田重雄/細田民樹/石川達三/井上靖/源氏鶏太/塩田英二郎/井上友一郎/角川源義/竹内四郎/生沢朗/品川主計/原四郎

これは、当館でも展示したことがないわけではありませんが、実は全長が5メートル近い巻物なので、普段は全部広げて展示することが出来ません。
今回はその全体が見られるということになります。

もうひとつは「皇統系図」。
これは杉本苑子さんが作ったもの。
その背景はこういうものです。

昭和28年の『サンデー毎日』の懸賞小説に入選した杉本苑子さんは、その選者であった吉川英治に弟子入りを願い、10年間は商業誌に作品を発表せず、勉強に専念するなどの条件を受け入れ、その指導を受けました。
その後、吉川英治は「私本太平記」を執筆することとなり、その指導期間に習作として足利尊氏を題材にしていた杉本苑子さんにたいして、南北朝の混乱の原因についての解説を求めました。
これはその際に杉本が作った天皇家の系統図で、吉川英治による鉛筆での書き込みがあります。

これらも“目玉”という言い方をすると、ちょっと違う気もしますが、比較的珍しいものであることは確かです。

一度実物を見ていただければと思います。

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「没後50年記念 読み継がれる吉川英治文学」

野間記念館にて 3月4日まで

北九州市立文学館にて 4月21日から

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