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2012年7月 3日 (火)

江戸(1)

次はこれ。

東京は作品の数が多いので、多摩と江戸府中に分けると前に書きましたが、それでもなお多いので、しばらく手を付けないつもりでいましたが、まあ、いいでしょう。

「牢獄の花嫁」

かつての名与力・塙江漢は、今は役職を退き、長崎へ蘭医学を学びに行っている息子・郁次郎が帰れば、許婚の花世と祝言を挙げさせ、養生所を開くことを計画している。
そんなある夜、南町奉行所同心の浪越八弥と加山耀蔵は塙江漢の隠居を惜しむ会へ向う道すがら不審な人影に出会う。増上寺の御霊廟の裏から現われたその男は、鎧櫃を背負った大男であった。
格闘の末に男を捕らえ、奉行所に連行し、鎧櫃の中を改めてみると、そこにはなぜか人差し指だけが切り取られた若い女の死体が入っていた。
奇怪な事件に遭遇した担当の与力・東儀三郎兵衛は引退した江漢に意見を求め、江漢も策を授けるが、相談役にという依頼には自分は隠退した身とこれを固辞、代りに推薦したのがたまたま江戸表に出て来ていた大坂の与力・羅門塔十郎であった。
やがて江漢の策によって女の身元が笛師の鷺江雪女と知れる。
しかし、あろうことか、羅門と東儀の探索により、江漢の息子・郁次郎が雪女と関係があることが知れ、雪女殺しの容疑者とされてしまう。
その郁次郎は既に江戸に戻っているにもかかわらず、なぜか江漢の元には姿を見せず、人目を避けているうちに江の島神社にまでやって来ていた。
その江の島の巫女・直美の手の中指を見た郁次郎は戦慄する。その指は許婚の花世と同じようにおはぐろで染められた黒い爪をしていたのだ。
しかし、その直美が中指を切り取られた死体となって見つかるのと前後して、羅門の手によって郁次郎は捕縛されてしまい、直美殺しの疑いまで掛けられてしまう。
郁次郎の逮捕を知った江漢は、必死の懇願により、処刑まで百日の猶予を与えられ、老骨に鞭打って息子の冤罪を晴らそうと捜査を開始する……

というストーリーです。

事件の裏にあるのは、亀山藩の世継ぎ問題。
藩主・松平龍山公には世継ぎとなる子が無かったが、実は江戸出府中に妾に産ませた男子がいた。
その子は武家に養子に出され、その後四人の娘をもうけたが、ある諍いから切腹、娘たちは離散してしまった。
その娘たちは後の目印にと爪をおはぐろで黒く染められていた。
羅門塔十郎は、与力としての才を買われてその娘たちの行方を探索していたが、やがて悪心を起して亀山藩家老の大村郷左衛門と結託、四人の娘を殺害し、自分の情婦である玉枝を替え玉にして藩を乗っ取ろうと企んだ。

という訳で、陰謀を隠して全てを郁次郎の罪にしてしまおうとする羅門と、息子の無実を信じる江漢の戦いが繰り広げられるということになります。
もちろん、江漢がその才能に信を置いた羅門が真犯人であることは、土壇場まで伏せられますが、現代の読者なら読み進むうちに割と簡単に犯人の目星はつくでしょう。

初出は『キング』昭和6年1月~12月号。
「吉川英治歴史時代文庫」の第9巻に入っていますので、現在でも購入可能です。

なお、「牢獄の花嫁」についての裏話として、こんなことを書いたことがあります。
そちらもご参照を。

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