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2012年7月 1日 (日)

神奈川(2)

昨日触れた、テレビドラマ化された吉川作品の中に出てきた作品をご紹介してみましょう。

まずは「旗岡巡査」です。

水戸藩内も出てきますが、主たる事件は横浜で発生するので神奈川に含めます。

「旗岡巡査」

桜田門外で井伊大老を襲撃した水戸藩士の一人、海後磋磯之介は下総松戸の宿で追っ手を避けて権十・お松父娘の醤油船へ逃げ込む。
狼狽する権十だが、お松は躊躇いもなく磋磯之介の怪我の治療をする。
船はやがて関宿の河番所に到るが、お松の機転により無事に通過、磋磯之介は生きて水戸藩に戻ることができた。
磋磯之介は神主である兄の粂之介のもとに匿われたが、その粂之介を頻繁に訪ねてくる女がいた。
磋磯之介に思いを寄せるお那珂であった。
磋磯之介への思いと自らの縁談の狭間で思い悩むお那珂は、どうしてもここに足を運ばずにはいられなかったのだ。
だが、あることから磋磯之介が神社に匿われていると確信したお那珂は、そこにいる磋磯之介に会わせてもらえないことに対し、自分の思いが裏切られたように感じて、縁談を受け入れた上に、代官所に密告をする。
かろうじて難を逃れた磋磯之介は、信じていたお那珂が自分を密告したことに衝撃を受けながら、他国へと落ち延びて行った。
さて、時は明治9年、茨城県結城警察屯所の巡査、旗岡剛蔵はとある犯罪者の追跡のため刑事とともに横浜へと出張してきた。
目当ての犯罪者が見つからないため、漠然と街を巡回する旗岡巡査だったが、そこに血相を変えた女がやって来て、殺人事件の発生を伝える。
生糸の仲買人の男を、その妾が拳銃で撃ち殺したというのだ。
管轄が違うし任務もあると渋る旗岡巡査だったが、女の勢いに押されて、現場に駆けつける。
現場となった妾宅の表札を見て、旗岡巡査はあることを思い出す。
そこに殺された男の本妻が現われるが、その姿を見て一瞬硬直する旗岡巡査。
実は、旗岡剛蔵とはかつての海後磋磯之介であり、偶然にも殺された男の妻はお那珂、妾はお松の今の姿なのであった。
一人で殺人犯の捕縛に向ったふりをして、お松と二人きりになった磋磯之介は、お松と語らいたい気持ちを抱くが、お松は拳銃で自ら命を絶ってしまう。
その十分後、元の任務に戻り、街頭で黙然と見張りをする旗岡巡査の姿があった。

短編のわりに長々とあらすじを書きましたが、それはこの作品が私の好きな作品だからです。
決して要約する能力がないからじゃありません……と思います。

初出は『週刊朝日』昭和12年初夏特別号。
「吉川英治歴史時代文庫76 柳生月影抄 名作短編集(二)」(講談社)に収録されており、現在も購入可能です。

海後磋磯之介は実在の人物で、桜田門外の変の後、実際に明治の世まで生き残り、警視庁などに勤務の後、神職となり、明治36年に76歳で没しています。

前半生で関わった二人の女が、同じ男の本妻と妾であったというのは、もちろん小説上のご都合主義ですし、旗岡剛蔵=海後磋磯之介のキャラクターも創作されたものでしょう。

ただ私は、「真実は皆死んで行った」と全ての感動を喪失した旗岡巡査の、幕末に多くの血が流されたのはこんな世の中のためだったのかという懐疑の念に、どこか共感を覚えるのです。

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