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2014年1月28日 (火)

「ことわり屋」と「にらみ返し」

先週、当館の草思堂落語会で吉川英治の新作落語を演じてくださっている柳家禽太夫さんの出演する落語会があったので、足を運んでみました。

一度くらい、スタッフとしてではなく、純然たる客として禽太夫さんの落語を聴いてみたかったのと、禽太夫さんの演目が「にらみ返し」であったことが、大きな理由です。

吉川英治の新作落語に「ことわり屋」というものがあります。

以前演じてもらった時、これと「にらみ返し」がよく似ていると禽太夫さんから伺ったので、気になっていたのです。

リンク先でも簡単に紹介していますが、「ことわり屋」はこんな作品です。
(ちなみにリンク先では主人公の名前を間違ってます。お恥ずかしい)

無職の頓公は、ご隠居に新商売の≪ことわり屋≫をやってみないかと奨められます。
≪ことわり屋≫とは、要するに、本人に代わって借金その他の断りをして、お代を頂戴するというもの。
これなら元手要らず、身体ひとつあればすぐにも開業できるということで、すっかり乗り気になった頓公は、さっそく「ことわり屋~」と街を流し始めますが、声をかけてくるのはおかしな客ばかりで、ちっとも儲かりません。
そうこうするうちに、気が付けば自宅に戻ってきてしまった頓公。
女房から、家に借金取りが10人も来ていて居座っていると訴えられた頓公、借金なんかすぐに何とかなると自信満々。
「見ろ、一人二円宛にして、十人断りゃ直ぐ二十円になるぢゃねえか」

一方、「にらみ返し」はこんな話です。

時は大晦日。
熊さんが帰宅すると、掛取りに何度も来られてうんざりしていた女房になじられます。
そこへ折悪しくやって来た薪屋の掛取りの「払ってくれるまでここを動かない」という言葉尻を捉えた熊さん、「じゃあ、半年間そこを動くな」と返して、まんまと撃退に成功します。
とは言え、大晦日だけに、まだ掛取りは何人もやってくるはず。
どうしたものかと思案するところへ、表から「借金、言い訳~」という声が。
招き入れてみると、ひとりの男が、1時間2円で代りに掛取りを追い返してくれると言います。
これは幸いと、どうにか2円をこしらえて仕事を依頼すると、この男、煙草をふかしながら、無言で掛取りをにらみつけて追い返してしまいます。
しかし、3人追い返したところで1時間が過ぎてしまいます。
まだまだ掛取りがくるので、時間を追加してくれという熊さんの頼みを断って、男が答えます。
「今度は家の方をにらみ返さねばならん」

なるほど、似ています。

本人に代わって借金の断りをする商売が登場すること、最終的に断る商売をしている者の家の話で落とすところ、なんかが同じです。

その一方で、断る商売をやる人間が主人公である「ことわり屋」に対して、「にらみ返し」では形としては脇役です。
また、「ことわり屋」は断りに成功していませんが、「にらみ返し」は成功しています。

それもそうでしょう、「にらみ返し」は、そのにらみ返す姿が見せ場になっている作品です。
一方、「ことわり屋」は、雑誌に掲載された“読む落語”ですから、にらみ返すのでは話になりません。
そこで奇天烈な依頼内容の方で笑わせようとしているということになるのでしょう。

また、「にらみ返し」は、話の前半と後半で主人公が入れ替わったような印象を受けます。
それは耳で聴く分には苦になりませんが、文章にすると妙な感じです。
「ことわり屋」の方が一貫性があります。

おそらく、吉川英治の頭には「にらみ返し」があったのでしょう。
それを、読む作品として再構成したのが「ことわり屋」と考えればいいのではないでしょうか。

そんなことを考えた一夜でした。

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