« 旧吉川英治邸を隅から隅まで見てみよう | トップページ | 冬期休館期間のお知らせ »

2016年2月20日 (土)

吉川作品の古書的価値

個人的なことですが、昨年、父親が死にました。
相当な量の蔵書を遺したので、これをどう処分しようかと思案し、専門書・研究書類については寄贈することを考え、簡略な蔵書目録を作っています。
その他の、研究目的ではない、娯楽・趣味として読んでいた書籍については、私の出身大学で行っている“古本募金”という仕組みを利用することにしました。
これは、いわゆる新古書店で扱っているような、ISBNコードのついている新しめの本を指定の場所に送ると、それを新古書店に売って、売り上げを大学に寄付する、というものです。
父親も元大学教授ですから、後進のためになるなら、良いだろうと思ったのです。

合計約1800冊(CD・DVDも含む)を送って、募金額が5万円に届きませんでした。

父親が、本に書き込みをする癖のある人で、その分、評価が下がったということはあるでしょうが、それにしても本の価値の低いことと言ったら。

バーンと寄付したつもりが、大した額にならなくて、ガッカリです。

さて、吉川英治の作品も、古書としての価値が高いものは、それほどはありません。

吉川英治は人気作家で、単行本もたくさん印刷され、大量に世に出回りましたから、需要と供給の関係で、あまり古書価が上らないのです。

さらに、吉川英治は作家になるまでは苦労しましたが、本格的に作家デビューしてからは2年ほどで人気作家の仲間入りをしているため、“無名時代に小部数だけ出した本”などというものもありません。

そんな中で珍しく稀覯本として高価なものがあります。

ひとつは、「鳴門秘帖 前編」。
その事情については、以前に書きました(ここここ)。

数年前にある講演会で縄田一男さんがこの本に触れ、「90万円する」なんてことをおっしゃったと伝え聞きましたが、しばらく前にどこかの古書市に出たものは、確か30万円だったと記憶します。
既に館で所蔵しているため購入する気がなく、あまり真剣に見ていなかったので正確ではありませんが。

もうひとつは、上のリンク先でも触れていますが、「親鸞記」。
吉川英治が作家となる前、新聞記者だった時代に、自分が勤務する『東京毎夕新聞』に連載し、同社から刊行された単行本です。
大正12年1月20日の奥付で出版されたこの本は、著者の名義が吉川英治の本名である≪吉川英次≫になっていることがまず珍しい上に、刊行から半年余り後の関東大震災で勤めていた新聞社が被災したことなどから現存数も少ないので、非常に貴重な代物です。

滅多に市場に出ないので現在の古書価はわかりませんが、結構なお値段になるでしょう。

この他に比較的古書価が高いものとしては昭和7年から8年にかけて刊行された「檜山兄弟」(上巻:昭和7年7月20日 下巻:昭和8年3月23日 新潮社)が挙げられます。

これは連載時(「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」昭和6年10月20日~7年11月13日)に挿絵を担当した堂本印象が装丁を担当したもので、版形も縦18センチ×横20センチという変形になっています。
これの場合は、そうしたモノとしての本の特殊性が値を上げているのでしょう。

稀覯本という意味では、戦前に刊行された「南方紀行」(昭和18年1月15日 全国書房)や「安田陸戦隊司令」(昭和20年6月20日 月刊毎日社)などは、戦後に何度も刊行された「吉川英治全集」にも収録されていないため、本として珍しいのみならず、内容自体も目にすることが難しいというものですが、たまに市場に出ても、それほど高価ではないように思います(ちなみに「南方紀行」は部分収録でなら戦後も出版されています)。

古書の値段は、よくわかりませんね。

|

« 旧吉川英治邸を隅から隅まで見てみよう | トップページ | 冬期休館期間のお知らせ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 旧吉川英治邸を隅から隅まで見てみよう | トップページ | 冬期休館期間のお知らせ »